【読書】『嫌われる勇気』―アドラー心理学は毒親育ちの救済になるか
※前ブログ記事の加筆、修正版
自己啓発本が嫌いだ。
「人は話し方が9割」「人は聞き方が9割」シリーズなんてタイトル考える時点で誰も何も思わなかったのか。足したら18割だろうに。
本書は生きづらさに悩める「青年」と彼を導く「哲人」の対話形式になっている。そしてこの「哲人」が人生を生きやすくするヒントとして「青年」に説くのが、アドラー心理学の教えである。だから本書は、対話形式の読みやすいアドラー心理学解説書と言ってよい。
本書で「哲人」は生きやすくするヒントとして、「人生のすべての悩みは対人関係によるものだ」とし、「他者の期待を満たそうとしない」「他者の課題を切り捨て、自分の課題に集中する」「今この瞬間を生きる」などを挙げていた。。
何かと他人に気を使いがちな毒親育ちにはぴったりの一冊に思えるのだが、読後の感想としては、読んだ人の状況やタイミングによっては劇薬になりかねないと思った。
読み進めて数十ページ、突如、
「あなたの不幸は、あなた自身が「選んだ」もの」
と物騒な記述が登場する。
生きづらさに困って本書に手を伸ばした人間の出鼻をクリティカルに挫いていくスタイルのようだ。
そもそもアドラー心理学はトラウマの存在を認めず、「君そりゃつらい経験をしたね、でもそれは君がいま引きこもっている理由にはならないよ」みたいな考え方をしているため、今精神的に苦しい人がこれを読むと、自責感情でかなりダメージを受けると思われる。
「青年」の友人で職場での人間関係がうまくいかず引きこもりになってしまった人について「哲人」が述べるシーンがあるが、その時の「哲人」の発言も、
「外に出ない」という目的が先にあって、その目的を達成する手段として、不安や恐怖といった感情をこしらえているのです。
である。
仮にその考えが正しいとしても、その考えは今生きづらさの渦中で布団から出られず希死念慮でずたずたの人を救うものではないなと思った。
だから渦中の人は特に、今すぐ読まなくてもよい本だと思う。
次に、「言ってることはわかるけど、それが実践できたら苦労せんわ」の気持ちにさせられる。
「生きづらさを楽にする」ことをうたってはいるけれど、具体的な方法は書いてないのである。そもそも本書はハウツー本の顔をして書店に並んではいるが、やっていることは哲学書なのである。
つまり、具体的な解決策が書いてある前提で読むと、
筆者「他者の期待を満たすことを第一にしないように!これはあなたの人生です!」
ぼく「それができなくて困ってるんです。何から始めたらよいでしょうか?」
筆者「他者の期待を満たさないようにしましょう!」
という事態が起こる。
ハウツー本的な即物性を期待してはいけない。ちなみにハウツー本は思考のショートカットだって昔何かで読んだ。
心が元気になったら、救済になるかもしれない。
つらいときに無理して読むものではないと思う。
アドラー心理学自体は興味深いので、調子がいいときにもう少し勉強したい。
おしまい